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メコンの川イルカ -2001年10月- |
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「プシュー」、「プッシュー」。川イルカが息継ぎする音だ。源流をヒマラヤに発するメコン川は、カンボジアの広大なジャングルを水没させ、様々な水生動物を育む。ここクラチェ県には、その息継ぎの頻度から七年前に取材したラオス南端の三倍は棲息しているように感じられた。皮肉にも内戦が開発を寄せ付けなかった地に、レッドデータブックで絶滅危惧種に挙がる川イルカの楽園があった。
■残された楽園
写真:ジャングルを水没させる雨季のメコン川。夫婦だろうか、二頭連れの川イルカが姿を見せた=クラチェ県カンピ村沖で
クラチェ県へは首都プノンペンからメコン川を遡ること約二百キロ、高速艇で五時間余りを要す。
仏領インドシナ時代の面影を残す市場では、「何種類かの魚は消えちゃったね」、「今年は小さな魚ばかり。もう小さいのしかいないんでしょ」と、入荷の先細りを憂う。
■不漁とイルカの危機
不漁の原因はナイロン網の普及だと、漁業局クラチェ支所のシァム・クル副所長は指摘する。それも捕れないからと、より長い、あるいは、目の細かい網の使用が乱獲に拍車をかけている。また、水中に電流を流したり、手榴弾を投げ込む違法な漁をするグループがいるが、銃を持っているので手が出せないともいう。漁業局の目標は、メコン流域の四十一村での漁協設立を急ぎ、乱獲に繋がる漁法の禁止と、雨季の禁漁を徹底させることだ。
川イルカが危機に瀕しているのも、餌の魚が減っている他、ナイロン網に引っかかったり、違法な漁の犠牲になっていることが、これまでの死体から判っている。
■少年船頭と「人魚」
写真:薄暮のメコン川で水浴びをする娘さん。寓話の光景は現代でも日常である=クラチェ県カンピ村沖で

クラチェ近郊で船頭をするソップ・ミー君(17)から、川イルカにまつわる寓話を聞きいた。 昔々、ある村に三人家族がいた。貧しい家だったが、娘は非常に美しく、一目惚れした神が、蛇に姿を変えて下界へ降りて来た。父がその蛇を持ち帰ると、神は姿を元に戻し、娘と恋に落ち、幸せな日々を送った。やがて別れの日が来たが、金の延べ棒を置いて姿を消し、一家は金持ちになった。 それを見た他の村人が「我が家も」と、蛇を持ち帰って娘に引き合わせた。だが、それはただの大蛇。娘はどくろに巻かれ、肩まで呑まれてしまう。近所に助けを求め、牛刀で蛇の腹を割いて、娘を助け出すが、娘の身体は一面粘液に覆われている。 娘は恥ずかしさのあまり、川へ走り、水浴びをしたが、ぬるぬるした粘液は落ちない。思いあまった娘は、身体に水を掛けていた金属製のボールを頭に被って水に飛び込んだ。すると、娘は突然『人魚』になった。両親は岸に佇み、娘の帰りを待ったが、水面に姿を見せた人魚は、「私のことは心配しないで、別の世界へ行きます」と言い残し、また水へ潜って行った。 ミー君は、「蛇に呑まれて粘液に覆われるのはリアルだし、ボールも頭の形と似ている」と、まんざら作り話ではないと思っているようだ。この題は『プサオ(=人魚)』。実際、カンボジアでは川イルカを「人魚」と呼んでいる。川イルカは滅多にジャンプしない上に、透明度十センチ以下の水がベールとなり、見えるのは息継ぎする際の背中だけ。それだけにこんな神秘性が保たれているのだろう。
ちなみに、ラオスの寓話では、ユートピアを探して筏で川を下っていた新婚夫婦が滝壺に落ちて亡くなり、夫が鳥に、妻がイルカに生まれ変わったとされていて、「パカー(=イルカ)」と呼んでいる。クラチェ近郊で船頭をするソップ・ミー君(17)から、川イルカにまつわる寓話を聞きいた。 昔々、ある村に三人家族がいた。貧しい家だったが、娘は非常に美しく、一目惚れした神が、蛇に姿を変えて下界へ降りて来た。父がその蛇を持ち帰ると、神は姿を元に戻し、娘と恋に落ち、幸せな日々を送った。やがて別れの日が来たが、金の延べ棒を置いて姿を消し、一家は金持ちになった。 それを見た他の村人が「我が家も」と、蛇を持ち帰って娘に引き合わせた。だが、それはただの大蛇。娘はどくろに巻かれ、肩まで呑まれてしまう。近所に助けを求め、牛刀で蛇の腹を割いて、娘を助け出すが、娘の身体は一面粘液に覆われている。 娘は恥ずかしさのあまり、川へ走り、水浴びをしたが、ぬるぬるした粘液は落ちない。思いあまった娘は、身体に水を掛けていた金属製のボウルを頭に被って水に飛び込んだ。すると、娘は突然『人魚』になった。両親は岸に佇み、娘の帰りを待ったが、水面に姿を見せた人魚は、「私のことは心配しないで、別の世界へ行きます」と言い残し、また水へ潜って行った。 ミー君は、「蛇に呑まれて粘液に覆われるのはリアルだし、ボウルも頭の形と似ている」と、まんざら作り話ではないと思っているようだ。この題は『プサオ(=人魚)』。実際、カンボジアでは川イルカを「人魚」と呼んでいる。川イルカは滅多にジャンプしない上に、透明度十センチ以下の水がベールとなり、見えるのは息継ぎする際の背中だけ。それだけにこんな神秘性が保たれているのだろう。 ちなみに、ラオスの寓話では、ユートピアを探して筏で川を下っていた新婚夫婦が滝壺に落ちて亡くなり、夫が鳥に、妻がイルカに生まれ変わったとされていて、「パカー(=イルカ)」と呼んでいる。
■川イルカ集結、サンクチュアリ出現
横浜市のボランティア団体、HAB21は四年前クラチェ市で国際イルカ会議を開き、今年六月には岩重慶一同代表(54)が私財を投じて市内にイルカ保護センターを完成させている。漁業局前局長のセン・タナ氏は、「川イルカ保護にはフンセン首相も声明を出し、HAB21には感謝状を贈りました。イルカを軸にしたエコツーリズムに期待しています」と政府の対応を説く。 その観光地となろうとしているのが、クラチェ市から北へ十五キロ、さらに舟で約二十分遡ったカンピ村沖の深みだ。川イルカの棲み家となる深みはカンボジア領内に九カ所あるが、今年は百頭近くがここに集結しているという。同会議以降、漁師に保護を呼びかけ、違法な漁を取り締まっているのが、川イルカには分かるのだろう。安全で住みやすいこの地がサンクチュアリになりつつある。 沖合で出会った英国人観光客フレデリックさん(34)は、「人間は動物を絶滅させることは出来ても、その逆は神にしかできないだろ」と話した。クラチェへの観光客はアンコールワットへの一%以下、年間七百七十人(昨年)である。
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